第12回「アレルギー予防の観点からみる腸内細菌vol.1」 | オーエム・エックス博士の知恵袋

こんにちは!
いつも弊社のメルマガを読んでいただき、ありがとうございます。
オーエム・エックスの社長の高畑宗明(農学博士)です。

私たちの会社がある岡山県は、「晴れの国」として知られています。雨の降る日
が全国的に少なく、災害もあまり多くありません。しかし、今年は台風が十数年
ぶりに岡山に上陸しました。最近ではさらに15号の被害も全国的に重なり、
自然の驚異を改めて痛感させられました。
このメルマガを書いている今日は、ようやく秋晴れに恵まれた3連休です。子ど
もたちを連れて動物園に行きリフレッシュしたので、また頑張って仕事に励みま
す!

さて今回から2回に渡り、アレルギーと腸内細菌との関連についてお伝えします。
お子さまがいらっしゃる方で、アレルギーについてお悩みの方は、ぜひ腸内細
菌について注目してください。

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 第12回 『アレルギー予防の観点からみる腸内細菌vol.1』
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アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息などのアレルギー性の慢性炎症性
疾患は、先進国の間で増加の一途をたどっています。小児アレルギーの国際的
な調査によれば、13歳から14歳までのこどもの10~20%が喘息にかかっていて、
さらには15~23%にアレルギー性鼻炎、15~19%にアトピー性皮膚炎の症状が
見られるそうです。

このように、世界的にアレルギー関連の患者数は増加していますが、そもそも「ア
レルギー」とはどういった現象のことを指すのでしょうか?まずはその定義につい
て一緒に見ていきましょう。


 アレルギーと免疫反応は表裏一体


私たちの体は、異物が侵入することを防ぐために「免疫」によって守られています。
そのため、ウイルスや病原菌から身を守り、体の中に元々存在しない異物に対し
て防御することができています。しかし、この免疫反応が特定の異物(抗原)に対
して過剰に起こってしまうことがあります。この免疫の異常反応をアレルギーと呼
んでいます。また、アレルギーを起こしてしまう環境由来の抗原を「アレルゲン」と
呼んでいます。

アレルギー疾患を考える際に、もうひとつ「自己免疫性疾患」という免疫病もあり
ます。どちらも免疫の異常に関わることなのですが、どの異物に対して反応する
のかが異なります。自己免疫性疾患はアレルギーとは違い、自分自身の細胞な
どに対して免疫反応が起こることです。例えば、臓器の細胞は元来自分の細胞
なので免疫で攻撃されることはありませんが、このシステムに異常をきたして、自
分の細胞を傷つけて炎症させてしまうことがあり、国の特定疾患に指定されてい
るものが多くあります。以下に簡単に二つの免疫病の違いについて記述します。

・アレルギー性疾患
外部からの抗原に対して免疫反応が起こる疾患です。通常の生活で触れる量と
しては無害なことが多いとされています。例えば、花粉症もアレルギー疾患です
が、花粉自体に毒性があるわけではありません。
(代表例)アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性胃腸炎、
喘息、食物アレルギー、蕁麻疹など

・自己免疫性疾患
自分の体を作っている物質を異物とみなしてしまい、免疫反応が起こって攻撃
する疾患です。特定の臓器や部位の障害、炎症をもたらしたり、全身性の症状を
表す場合があります。
(代表例)関節リウマチなどの膠原病、全身性エリテマトーデスなど

今回のメルマガでは、特にアレルギー性疾患について取り上げることにいたしま
す。そして、このアレルギー性疾患と腸内細菌との関係性が、近年非常に注目さ
れています。最近解明されてきたアレルギーに関する知見を見ながら、理解を深
めていきましょう。



 腸内細菌は腸の免疫細胞を活性化しています


私が担当しているメルマガの中でも、何度か「腸内細菌」についてご紹介してき
ました。ここでもう一度ご説明することにいたします。私たちの腸内には1000種
類1000兆個を超える微生物が住んでいます。これらの微生物をまとめて「腸内
細菌」と呼んでいます。腸内細菌は、ただそこに住み着いているだけではなく、
私たち人間と共生関係にあります。共生とは、お互いに栄養素などを分け合って
生命を維持する相互協力関係のことです。私たちは腸内細菌に、食事を通じた
栄養素を届けています。このことで、腸内に住む共生菌は安定した住み場所を
確保することができています。

それでは腸内細菌は私たちに何をしてくれているのでしょうか。実は、腸内細菌
は、人間の食事から得られる栄養素を使って生育する時に、一緒にビタミンや有
機酸などを作り出し、それらの成分が私たちの体に吸収され利用されています。
そして、さらに大切な働きとして、腸の免疫細胞を活性化していることが明らかに
なってきているのです。そこで、アレルギーと密接な関連のある免疫細胞と腸内
細菌の関係について、まず見ていくことにしましょう。

例えば、私たちが研究をする際の動物モデルとして「無菌マウス」という腸内細菌
が存在しない小型ネズミを作ることができます。この無菌マウスでは、実は腸にあ
るはずの免疫細胞が増えないことが分かっています。そして、この無菌マウスに、
腸内細菌が住んでいる他のマウスから腸内細菌を移すと、免疫細胞が増えてい
きます。要するに、腸内細菌は腸の免疫細胞を活性化して、免疫能力を獲得さ
せることができるのです。腸内細菌がいることで、腸内の免疫細胞が成熟してい
くことができます。


 アレルギー性疾患の増加と「衛生仮説」


アレルギー性疾患とは、外部からの異物に対して免疫が過剰に反応してしまうこ
と、と冒頭にご説明しましたが、詳しく見ると「免疫のアンバランス」が原因として
挙げられます。免疫のバランスは、よくTh1細胞系とTh2細胞系で説明されま
す。「Th」とはヘルパーT細胞の略で、このTh1/Th2細胞バランスが、アレルギ
ー性疾患の指標とされています。Th1細胞とTh2細胞は、どちらか一方が強くな
ってしまっても過剰免疫や免疫抑制に傾いてしまうため、この細胞のバランスを
保つことが大切なのです。

私たちが生まれた時、免疫反応はTh2系が優位になっています。そして成長に
伴って環境から色々な刺激や抗原に出会い、また微生物に感染していくことで
今度はTh1系の免疫細胞が誘導されます。そうしてTh1/Th2細胞バランスが確
立されていくのです。しかし、近年は特に小児のアレルギー性疾患の発症が増
え続けています。そこで提唱されているのが「衛生仮説」です。

この説によるとワクチンや抗生物質の使用と、衛生状態の改善によって、免疫系
への微生物の感作が減少してしまい、Th1細胞が誘導される機会が失われるこ
とでアレルギー性疾患の頻度が増えたということです。例えば、結核などの感染
症は減少は衛生状態の向上で減少しましたが、逆にアレルギー性疾患を増加さ
せる一因として考えられています。また、病原性細菌への感染等(例えば病原性
大腸菌)のニュースのみが取り上げられたり、過度な抗菌ブームが起こっている
ことで「菌=悪」という考え方が一般化されてしまっていることも問題です。生後か
ら幼少期にかけて、適度に山や川で遊ぶことで、環境中の微生物や抗原を体に
取り込むことは、免疫系のバランスを整えるために非常に重要なのです。

一方で、新生児期の微生物への感作は免疫バランスにとって大切ですが、出生
後早期に有害菌に感染してしまうと、Th1細胞の活性が強化され過ぎて、アレル
ギー関連の炎症を発症してしまう場合もあります。衛生過ぎてもアレルギー発症
率は増加してしまうため、環境中の害のない微生物に触れながら、有害菌への
感染を防ぐ必要があります。そして、抗生物質を安易に使うことなく、腸内の善玉
菌を優位にしておくことでアレルギー性疾患の発症を回避していくことが理想で
す。

そのために、現在母体への乳酸菌(プロバイオティクス)投与や、赤ちゃんや子
どもへの乳酸菌投与、また腸内のビフィズス菌を増やすためのプレバイオティク
スがアレルギー性疾患の予防として注目されています。次回は実際に臨床試験
データなどを見ながら、アレルギーと腸内細菌との関係、さらには予防に向けて
の乳酸菌の効果をお話します。