全身に共生する微生物
私たちの体には、「常在菌」とよばれる数多くの細菌が生息しています。普段は目に見えませんが、私たちは生まれてから死ぬまで、常に微生物と一緒に暮らしています。常在菌は口腔、鼻腔、胃、小腸、大腸、皮膚、膣など全身に住み着いているが、その種類や菌数、組成比は部位によって異なります。例えば、口の中には虫歯菌も存在しますが、環境が整っている場合は虫歯菌は抑制され、食べものの分解や歯垢の除去、感染防御にも役立っています。皮膚常在菌は、肌に潤いを与え、外部からの刺激に対して免疫機能を発揮しています。また、膣内の常在菌は感染防御に役立ち、出産時に胎児に微生物を受け渡す大切な役割も担っています。
腸内細菌叢について
このように全身に共生する細菌の中で、特に、大腸に形成されている微生物の集団を「腸内細菌叢」といいます。別名として「腸内フローラ」もよく使用されますが、近年は「microbiota(ミクロビオータ)」「microbiome(ミクロビオーム)」が科学論文では一般的に使用されています。大腸内は、世界で最も微生物密度が高い場所ではないかと考えられています。
大腸の腸内細菌叢は100種類~1000種類、数にして約1000兆個といわれています。100種類~1000種類と幅があるのは、解析方法によって検出できる数に差が生じるためであり、海外を含め一般的には100種類というのがよく使用されています。ただ、ゲノム解析を最先端で行っているグループの研究者らは1000種類と文献に記載しているため、私たちは1000種類を採用しています。
腸内細菌の総数は重さにして1~2kgです。私たちの体が60兆個の細胞でできているため、1000兆個の細菌と考えると10倍以上もの自分ではない細胞が腸内に住んでいるという計算になります。このように膨大な数の微生物、つまり腸内細菌たちが腸には共生しているのです。
さらに、人の血液中に存在する小分子量の36%は、腸内細菌叢が関与しているともいわれるほどです。(Hood, L., Science 336, 1209 (2012))
腸内細菌と私たちの健康
大腸に作られている腸内細菌叢は、私たちの健康状態と密接に関係しています。腸内細菌が存在していることが、私たちの体の成熟化や恒常性の維持に必須であることが明らかになってきました。例えば、栄養、薬効、生理機能、老化、発がん、免疫、感染などに大きな影響を与えています。
一方で、腸内細菌叢の破綻(乱れ、dysbiosis)は美容や健康に悪影響があるだけでなく、消化器系疾患を含めたさまざまな全身性の疾患と関連している。こうしたことから、人の腸内細菌叢は「新しい臓器」とも例えられ、「ヒトはヒトゲノム(人の遺伝子)とマイクロバイオーム(微生物の遺伝子)からなる超有機体である」、つまり人間は人間の遺伝子と微生物遺伝子から構成されている生命体である、という概念が提唱されているのです。