第38回 『カロリー制限で腸内細菌バランスを改善できる!?』 | オーエム・エックス博士の知恵袋

こんにちは!
いつも弊社のメルマガを読んでいただき、ありがとうございます。
オーエム・エックスの社長 高畑宗明(農学博士)です。

世界では昨年、「伝統的な日本食」が評価され、世界文化遺産に登録され
ました。その一方で、日本でも食の欧米化が進み「飽食の時代」といわれ
ています。体重の増加によるメタボリックシンドロームや生活習慣病のリ
スクがさけばれる中、同時に過剰なダイエットによる弊害も生まれるなど、
食についての正しい知識や理解が追いついていないのが現状ではない
でしょうか。

飽食に対するひとつの対処法として、「カロリー制限」が注目されていま
す。カロリー制限が寿命を延ばし健康状態を改善することは、近年、世界
の多くの研究機関で確認されています。たとえば、げっ歯類(ラットな
ど)の寿命が短い動物では、カロリー制限によって30~40%も寿命が延
びます。さらに、寿命の長いアカゲザルでも、食事のカロリーを30%少
なくしてビタミンやミネラルを適切に補うことで、健康寿命を延ばせたと
いう報告があります。今回は、カロリー制限と腸内細菌の関係、さらに人
間に当てはめた場合どのように実施すれば良いかなどをみていきましょ
う。

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 第38回 『カロリー制限で腸内細菌バランスを改善できる!?』 
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 カロリー制限で善玉菌が増える結果が発表されました


2013年の「ネイチャー・コミュニケーションズ」という論文に、カロリ
ー制限と腸内細菌バランスの研究結果が発表されました。マウスでの実験
ですが、カロリー制限によって乳酸菌の一種であるラクトバチルス菌など
の善玉菌が増加しました。また、逆に悪玉菌は減少しています。

この研究では試験区を「高脂肪食群」「低脂肪食群」「高脂肪食+30%カ
ロリー制限群」「低脂肪食+30%カロリー制限群」の4つに分けた結果、
低脂肪食+30%カロリー制限群において最も寿命延長効果が得られてい
ます。また、悪玉菌が増加したときに血液中にみられる「LPS(リポポリ
サッカライド)」という成分に関連するタンパク質も減少していました。

これまでに発表されているカロリー制限と寿命の研究でも、「30%のカロ
リー制限」がよく用いられています。こうしたことから、「30%」という
のは長寿における一つのカロリー制限の目安になると考えられます。


 冬眠の動物は断食(ファスティング)中に善玉菌が減少します


先ほどの研究は日常の食事からカロリーを制限する研究でしたが、「断食
(ファスティング)」の場合はどのように腸内細菌が変化するのでしょう
か?動物の中には、冬場に「冬眠」をする種類があります。こうした冬眠
動物は、その期間は食事をとらないために「ファスティング」と同じ状態
になります。

この冬眠をする動物の、活動期とファスティング期の腸内細菌や腸の状態
を比較した研究があります。それによると、ファスティング期には腸内細菌
の多様性(種類)も数も減少していることが分かっています。また、30%
カロリー制限時には増加していた乳酸菌のラクトバチルス菌は、ファスティ
ング状態では検出されないほどに減少していました。

その他、腸に無数に存在し、食事からの栄養吸収に欠かせない小腸の絨毛
(じゅうもう)も、ファスティング期には細胞数が減少して小さくなって
いました。こうした現象は、冬眠動物では活動期にしっかりと食事をとっ
て体重を増加させ冬場に備えているからこそ、きちんと維持できている
のです。そのため、私たち人間が食事を抜いたり過度なファスティングを
行うことは、腸内細菌の多様性や数を減らし、善玉菌を減らしてしまうこ
とにもつながりかねません。


 カロリー制限のメリットとデメリットを理解しよう


動物実験では、様々な病気の予防や免疫機能の改善、心臓関係の改善など
が報告されるなど、カロリー制限がもたらすプラスの効果は広く知られる
ようになってきました。

さらに、人間での研究では、寿命に対してではありませんが、カロリー制
限が記憶力の改善に有効であるという結果があります。50~80歳の健康
な女性を、「30%カロリー制限群」「不飽和脂肪酸増量群」「日常生活
群」に分けて研究をしたところ、カロリー制限群のみに記憶能力の改善が
認められています。このように、私たち人間でもカロリー制限の効果は期
待されますが、一方でリスクも少なからず存在します。

日常の食事から30%もカロリーを制限することは、かなり大変なことで
す。そして、下記のようなデメリットも出てきます。

(カロリー制限によるデメリット)
・空腹感にたえられない(反動による暴飲暴食)
・集中力の欠如、寒さへの感度上昇
・傷の治癒の遅延
・骨粗しょう症リスク増加

また、動物では同じ食事内容で、均等な運動量によって実験が行われます
が、人間ではそのような厳密な管理をする訳にはいきません。日々の運動
量や食事内容も大きく違います。デスクワークの多い人や肉体労働の人、
通勤スタイルなどによっても必要とするカロリー量や消費割合は異なるで
しょう。30%のカロリー制限をすることは、かえって日々の健康を損なってし
まうリスクの方が大きい可能性もあります。

そうした中、2011年に肥満気味の女性を対象に、25%のカロリー制限を
「毎日行う群」と「週に2回行う群」に分けて実施する研究が行われまし
た。その結果、なんと毎日行っても週に2回行っても、6ヶ月後に体重減
少とメタボリックシンドロームなどの炎症指標の低下が認められたので
す。このことから、毎日ではなくとも週数回の制限を継続して行うこと
が、無理のないカロリー制限につながると考えられます。


 おすすめのカロリー制限スタイルはこれ!!


今回の様々なデータを総合すると、以下のような食事スタイルが、健康的
なダイエットや長寿、腸内細菌の改善に有効であると予測されます。

<理想的なカロリー制限スタイル>
・毎日の食事内容は10%くらい量を控えめにする
・週に2回程度、25%~30%のカロリー制限日を設ける
・腸内細菌のために、野菜や果物の摂取を心がける

また、「週末断食」というファスティングもブームになっています。今回
のメルマガでご紹介したように、毎日の食事置き換えによる過度なカロリ
ー制限や過剰なファスティングは、腸内細菌バランスの乱れにつながる恐
れがあります。ただ、「空腹時間」は腸の動きを活発にするために大切
であることが分かってきています。

これは、空腹時に腸で分泌される「モチリン」という消化管ホルモンが関
係しています。このモチリンは食後8時間以上たって、空腹を感じること
で分泌され、腸のぜん動運動を促進することで排便を促します。

普段3回の食事をする場合、食事と食事の間が8時間未満だと十分にモチ
リンが分泌されていないかもしれません。朝食と昼食の間は8時間確保す
ることが難しいかもしれませんが、夕食と朝食の間は最低8時間以上あけ
ることをおすすめします。夜間にモチリンが分泌されることで、朝に排便
がおこりやすくなります。そのため、間食(おやつ)や夜食は、腸の動き
にとっては大敵なのです。このモチリンの働きを活用する方法として、週
末の簡単なファスティングは効果的に働くこともあるでしょう。

いずれにしても、食事内容、カロリー制限、ファスティングなど、すべて
は腸に状態に関係してきます。どのようなスタイルを選んでいく場合で
も、腸内細菌に悪影響を与えないように、腸内細菌のケアをきちんとする
ことが何より大切です。ぜひ、ご自身の健康維持や食事スタイルの維持
に、『OM-X』をお役立てください。

(参考文献)
・Nat commun 4:2163 doi: 10. 1038 (2013)
・Am J Physiol 1:304: R33-42 doi: 10. 1152 (2013)
・PNAS 106. 1255-1260 (2009)
・Int J Obes 35, 714-727 (2011)