第22回 『GABAを摂取すると脳はリラックスできるの?』 | オーエム・エックス博士の知恵袋】

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オーエム・エックスの社長の高畑宗明(農学博士)です。

先日、アメリカのノースウェスタン大学医学部行動科学科の准教授が、夏
に気温が上がることで短気さが増す人が多くなるというコメントを発表し
ました。暑さによる睡眠の悪化や脱水症状、さらに暑さを避けるために、
いつもの活動が制限されてしまうことなどがあいまって、暑熱の中で人は
不機嫌になり、その状況を変えることができないために一層短気になりが
ちになると准教授は指摘しています。今、夏真っただ中でちょうどこうし
た状況が私たちの周りにあると思います。体調面からも、十分に水分を摂
取して、食事から栄養を補うなど、体のコントロールをしっかり心掛けて
生活しましょう。

さて、近年「うつ病」を始め、心の病を抱えている方が増加傾向にありま
す。厚生労働省は、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病と並び、精神疾患を
「5大疾病」と位置づけて重点対策を行う方針を掲げるまでになっていま
す。こうした中、最近では食べ物と「うつ病」との関係も取り上げられる
ようになり、精神安定を謳うサプリメントなども販売されるようになりま
した。中でも数年前から注目されている「GABA」は特定保健用食品にも配
合されるなど、関連商品が数多く販売されています。しかし、本当に単純
にGABAを摂取すれば精神の安定に繋がるのでしょうか?

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 第22回 『GABAを摂取すると脳はリラックスできるの?』 
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インターセプション  そもそもGABA(ギャバ)ってどんな成分なの?


ここまでGABAと略称で書いてきましたが、GABAとは一体どのような物質
なのでしょうか。GABAの正式名称は「γ(ガンマ)-アミノ酪酸(らくさ
ん)」です。英語名が「Gamma-Amino Buryric Acid」であるため、その頭
文字をとって「GABA(ギャバ)」と呼んでいます。GABAは動植物など広
く自然界に存在する物質なのですが、人間をはじめとするほ乳類の脳や脊
髄などの中枢神経に特に多く存在しており、抑制性の神経伝達物質として
働いています。

抑制性とは、分かり易く言えば精神を安定させることです。興奮した神経
を落ち着かせたり、ストレスをやわらげたりリラックスさせるなど、現代
人がストレス社会を生きていくために必須の役割を果たしていると言えま
す。逆に、興奮性の神経伝達物質も存在していて、それがドーパミンと呼
ばれる物質や、うまみ調味料でおなじみのグルタミン酸などです。実は
GABAは脳内でグルタミン酸から作られていて、抑制性物質が興奮性物質
から作られることで神経伝達は抑制と興奮のバランスを保っています。

GABAはもともと体内で十分な量が作られているのですが、強いストレス
にさらされると、それを緩和するために大量に使われるために不足しがち
になります。GABAが不足すると興奮性の神経伝達物質が過剰に分泌され
ることになり、リラックスできない状態が続いて緊張を強いられることに
なります。そのため、「ストレス社会と戦うためにGABAを摂取しましょ
う!」という商品が次々と開発されているのです。でも、実はGABAは脳
に直接取り込まれて作用するわけではありません。


 GABAは「血液脳関門」を通過できない!


私たちの脳は、他の臓器と違って簡単に外からの成分が脳内に入り込まな
いように守っている関所のような場所があります。これを「血液脳関門」
と呼んでいます。血液と脳の間にある血液脳関門が、血液中の物質を簡単
に脳に通さない仕組みを作っています。脳は、より良い状態を保つために
脳に入れる物質を自ら制限しています。そして、GABAはこの血液脳関門
を通過できないことが分かっており、体外からGABAを摂取しても、それ
が抑制性の神経伝達物質として直接脳内で使用されることはないのです。

GABAは特定保健用食品(トクホ)にも配合される成分なので、「GABAが
効果ないのはおかしい」と思われる方も多いかと思います。ただし、GABA
が配合されたトクホ製品は、すべてが「血圧が高めの人への効果」です。
また、医薬品にもGABAを含むものがありますが、脳血流を改善する効果
は記載されていません。医薬品として処方される場合は、頭部外傷後遺症
にともなう諸症状の改善効果となります。

少し触れたように、GABAの血圧抑制効果は、多くの研究が報告されてい
ます。GABAは、脳内に直接入ることはできませんが、血管を通じて末梢
臓器の神経伝達を抑制して、血管収縮を緩めることができます。血管収縮
を起こすノルアドレナリンという物質の分泌を抑えることで、血圧が下が
るというメカニズムになります。そのため、GABAの精神安定効果は、血
圧が落ち着くことによるリラックス効果と考えることもできます。一方で、
GABA自体は本当に脳の精神安定作用に、直接は関係していないのでしょ
うか?そのカギを解くのは「腸」だと私は考えています。


 腸にも脳と同じGABA受容体やセロトニン受容体がある!


脳の中の「海馬」や「扁桃体」という場所に、GABAの存在を認識して抑
制性の反応を起こさせる、受容体と呼ばれるスイッチのような細胞があり
ます。実は、この脳内のGABA受容体と同じものが、なんと「腸」にも存
在しているのです。さらには、脳内の「幸福ホルモン」と呼ばれるセロト
ニンの受容体も、脳内だけでなく腸内にも存在しています。セロトニンは
約95%が腸で作られ、脳内で作られる2%と比較しても遥かに大量に腸で合
成されています。

ごく最近、ある乳酸菌(L. rhamnosus JB-1株)が、マウスの迷走神経系
を刺激し、脳内の皮質や海馬、扁桃体のGABA受容体の産生量を変化させ
るという論文が発表されました(PNAS. 108, 16050-5 (2011))。つまり、
ある特定の乳酸菌の摂取は、感情や行動をコントロールする可能性を秘め
ているということになります。そして、乳酸菌摂取やGABA摂取によって
「腸」のGABA受容体が刺激を受け、その刺激が脳と腸をつなぐ中枢神経
を伝って脳に届き、脳内でのGABA産生能が上がっていると考えることが
できるのです。これを支持する結果としては、腸と脳を繋いでいる神経を
切断したマウスでは、脳内GABA受容体の活性化が見られないという報告
があります。つまり、腸から脳への伝達が切れると、脳のGABA産生能は
上がらないと予想されます。

こうした研究は、さらに無菌状態のマウスを使っても行われています。カ
ナダのチームによって行われた研究では、腸内細菌を全く持たないマウス
(無菌マウス)を使って、腸内細菌が脳と腸の相互干渉を助けていること
が発見されました。例えば、腸内細菌がいないマウスでは、学習や記憶に
関わる海馬の遺伝子が活性化されていないことが示されています。また、
こうしたマウスは非常に不安を示すような行動を取ることも分かっていま
す。さらには、不安を示している無菌マウスに腸内細菌を移植すると、な
んと消極的で不安なマウスが行動的になったのです。これらから考えられ
るのは、現代の様々な精神疾患が、抗生物質や感染症、さらには食事の乱
れや不規則な生活から生じる「腸」や「腸内細菌」の乱れに根本の原因が
あると考えられるのです。

私たちの腸は、「第2の脳」と呼ばれるほど、神経細胞が密に集まった器
官です。少し前までは、腸は食べ物を分解して吸収するだけの場所として
考えられていました。実際に、今も普段の生活で、腸がそれ以上の役割を
していると考えることは少ないと思います。しかし、実際には「免疫」の
最前線であり、さらには「精神」においても脳に多大な影響を与える大切
な器官なのです。

GABAを摂取するために、発芽玄米が推奨されます。発芽玄米は、胚芽に
必要なビタミンやミネラルなど豊富に含む栄養価の高い食品です。また、
発芽処理によって、玄米中では吸収されにくかった栄養素の吸収も良くな
ります。そして同時に、腸にも優しい食材だと考えられます。GABAの配
合されたサプリメントを単純に摂取しても、脳に直接届くわけではありま
せん。精神的な安定をもたらすためには、直接的なGABA摂取よりも、腸
内環境を整えて腸内のGABA受容体をきちんと働かせる方が遥かに重要だ
と思います。いくらGABAを摂取しても、腸が詰まっていたりして受容体
に感知されなければきちんと働きません。心のバランスをしっかりと保つ
ためにも、腸や腸内細菌は大切な役割を担っているのです。